「夢のまにまに~『深草や』裏異聞~」


「おやすみなさい『カナタ』くん。素敵な夢を見ましょうね~♪」

 もうそんな時間……僕は、スマホから響いてきた「トコさん」の甘美な声に思わずニヤけながらマウスを操作した。観ていたサイトを閉じてPCを再起動。
 モニターから顔を上げると、壁にかけてある昨日まで着ていた学ランが目に入った。
 今思えばあっという間だった高校生活、学ランの第二ボタンはついたままだ。そもそも女子どころか級友とさえろくに遊ばなかったのだから、当然の結果だね。
「トコさんが、いればいいよ……」
 一度暗転したモニターの横に立ててあったアクリルフィギュアを手にとる。高さは約十五センチ。手にすっぽり収まる透明なアクリルの中に、大好きな「トコさん」がいる。
 栗色の長髪、浅葱色の瞳、縦に並んだ二本の大きな尻尾が印象的な化け狐さん。もふっとした狐耳も可愛らしいきつね娘。巫女服をベースにしたような服装は、深いスリットや短い上着、前垂れなどの端々に素肌をさらした魅惑的な、むしろ欲情を煽るようなものだった。
 それもそのはず、トコさんこと『瓜生永子(うりゅう・とこ)』は稲荷谷の底にある狐遊郭「深草や」のアイドルなんだから。
「ま、父さんがああでなかったら、こんなにハマらなかったけどさ」
 うちは母がいない。そのせいか父さんは何でも僕に話してくれる。セックスのことも包み隠さずだけど、めっちゃ気恥ずかしいからそんなに話したことはない。
 ネット上でエロい漫画が読めてシコれるサイトは幾つもあったけど、大抵マルウェアやスパイウェアとセットだった。毎度駆除するのもメンドクサイし、かといってコンビニでエロ本買ってくるのも恥ずかしい。だから「深草や」を見つけた時はラッキーと思ったよ。
 そこにあった漫画は、狐娘達が酷い目に遭うのがデフォだったけど気にはならなかった。ただ興奮し過ぎちゃって「僕って変態?」と自問はしたけどね。
 ある日、父さんが勧めてきた漫画の作者が「深草や」で一番好きな漫画と同じ人だったから、その漫画を読んでみた。面白かった、エロ漫画じゃないのにシコれた。そんな僕の反応を見透かしたように、父さんは「深草や」を勧めてくれたんだ。当然、知らんぷりしたよ?

 やがて、僕の運命を変えてしまう物語が「深草や」で始まったんだ。
 それは『瓜生永子』という凛とした狐娘が「深草や」にやってきて遊女になる物語。
 稲荷谷の遊郭の主「明烏」さえ驚くほど、永子は男どもの精気をむさぼりまくり、注がれる穢れさえ己のものにして「チカラ」を高めていった。
 やがて、彼女の尻尾が二本に増えたとき『瓜生永子』は稲荷狐へ昇格したんだよ。

 僕は『瓜生永子』を一目見たときから恋に落ちちゃって……正直な話、彼女の性交シーンを観るのは辛かったし、それに負けないくらい激しく興奮もした。何回シコったかなんて覚えていない。
 だから、トコさんが「深草や」のアイドルになってアクリルフィギュアが限定発売されたときにはめっちゃ苦労して何とか一つだけ、彼女のフィギュアを入手できたんだ。
 そっけない包装から取り出すと、トコさんの立像は窓から差しこむ陽できらりと光った。
 それはもう、本当に神々しくて。
 ああ、僕は彼女を愛してるんだって真面目に思ったよ。
 その日以来、僕はどこにだってトコさんを連れて歩いた。ちょうど胸ポケットサイズ(スタンドは外して)だったから一緒にいるのもラクだったし、ことある毎に取り出して彼女を愛でてると心が落ち着いたんだ。無論、そんな姿を他人が見たらおかしいヤツって思われるから、バレないようにすごく気をつけたけどね。

「どうしたの『カナタ』くん。まだ、ねんねしないのかしらぁ?」
 甘ったるいトコさんの声がまた、スマホから寝なさいよ~と言ってる。
 アラーム代わりな彼女の音声データは「深草や」のDLコンテンツだよ。
 この声を聞きながら、アクリルの中にいるトコさんを見つめると心臓がドキドキする。
 でも、さすがに寝ないとなぁ。朝から郵便局のバイトが始まるし。
 いつも通り、彼女をパジャマの胸ポケットにしまった。ひんやりした感触が心地いい。
「おやすみトコさん。夢で逢えたらいいのにね~」
 どんなに想ってみても、夢の中で彼女に会えたことはほとんどないし、その記憶もおぼろげだった。今度こそはと強く念じつつ、僕はベッドに潜りこんだ。

*       *       *

「こぁっこあぁっ! こやぁあぁ~~っ!!」
 絶頂の喘ぎが響く。
 尻を衝かれて白い裸身をのけぞらせ、黒い耳と尻尾がびくんびくんと震えている。
「うぉおぉおぉ~!」
 どくっどくどくどくっ。細い腰の奥から男の放つ精の音が聞こえてくるようだ。
(これは……!?)
 黒い屋根を抵抗もなく通り抜けて、不思議な落下感と共に通り過ぎる一瞬。黒髪の狐娘と男の交合を見た。ここは「深草や」だ。そう思った刹那、畳床をもすり抜けて、僕の身体はごつい岩肌にぶち当たった。けれど、やはり音一つ立てることもなく地面へ落ちていく。
(い、いやだ! いやだぁぁあぁぁぁ~!!)
 岩塊の下に広がった暗闇に、僕は心の奥底から拒絶の叫びを上げた。本能が脅えてる。湧き起こる恐怖に張り裂けそうだ。そこは虚無の深淵。底無しの穴。もしかすると「深草や」で語られていた『奈落』かもしれない。
 そんな妄想が頭に取り憑き、僕は声にならない絶叫を上げた。

「おんし、おもろいモンもっとるのぉ?」
 小鳥のさえずりのような美しい響きに、僕は我に帰った。
「え? ぜぇぜぇぜぇ……ひぐっ!?」
 怯えきった心が生み出す胸の痛みに息が途切れる。
「あぐっ!? ぐぁあぁぁぁ!」
 胸ぐらに爪を立てる。ひゅーひゅーいう喉。絶息の怖れがますます胸を締めつける。身を丸めても動悸が止まらない。死ぬ? そんな言葉が脳裏をよぎる。
「ほれ、落ち着かんか」
 ぽんと背中を叩かれた。小さな手のひらの感触に激しい焦燥感が一瞬にして消え失せる。
「え、えっ?」
 落ち着いて顔を上げると、そこは薄い虹色がにじむ球の中だった。シャボン玉? 大きな薄膜の玉が僕の全身を包んで浮いている。辺りは真っ暗闇。遠くに滝の流れ落ちるような音が聞こえるだけで何も見えない。
「わ、わわわわっ!?」
「おちゃせんよ。おとなしぅしとき。暴れて墜ちたいっちゅうならしらんがの。くふふっ」
 シャボン玉の横に、腰から赤く鋭い竜翼を開いた少女が浮いていた。羽ばたきもせずに。
 僕は一生懸命呼吸を落ち着かせながら、彼女の様子をおそるおそる覗き見る。
 年の頃は十二才くらいだろうか。幼さの残るたまご型の顔立ちは白く儚げだった。薄金色の瞳が悪戯っぽい輝きを湛えて僕を見つめている。
 赤い唇は微笑を浮かべ、八重歯というには少し長過ぎる二本の白い牙先を覗かせていた。
 頭頂部に近いところで白と黒の角飾りに結ばれたポニーテールは、金から褐色までの滑らかなグラデーションを描いており、煙のような、ほわっとした広がりを見せている。
 ほんのり膨らんだ胸ときゅっと締まった股座は濃紺の装具で覆われているが、全身を見ればほぼ全裸といっても過言じゃないだろう。
 まるで昔のファンタジー世界から飛び出してきたような赤い竜翼の少女は、その頭に片方が半ばで折れているウサギの黒い耳を生やしていた。お尻のすぐ上から伸びている細長い尻尾が、もふっとした先端の毛玉をゆらゆら揺らしている。
「くふふっ。危ないところじゃったの。我がその胸の光に気づいてなければ、おんしは『奈落』に真っ逆さまじゃ。そうなってはもはや何人も助けられんからの。くふふふっ」
 ぷわんっとシャボン玉の中へ入りこみ、少女はどこか愉快気に笑った。
「僕の胸の?」
 胸ポケットを反射的に見やると、少し顔をのぞかせてるトコさんのアクリルフィギュアがほのかに白く光っていた。
「ふむ?」
 少女が音もなく、僕のパジャマの胸ポケットからトコさんを引っ張り出す。
「あっ」
 大切なトコさんを連れ去られて動揺する僕をよそに、少女はアクリルフィギュアの表裏を眺めている。
「鰯の頭も信心からっちゅうが、これは違うの。おんしの想いがようこもっとる。我が間に合うたのも、ひとえにこれがおんしの身を守護していたからに他ならん」
 少女が教えてくれたトコさんの護りに、僕は胸が熱くなった。一心に愛する気持ちが起こした奇跡……それを知れただけでも、僕の人生に意味はあったんだ。
 涙があふれてきて止まらなくなった。少女は少し眉根を寄せている。
 ふと思いついたように少女が指を少し動かすと、シャボン玉がぶわっと広がって楕円形のドーム状になった。その床は平らに広がってふかふかな感触のマットのようだ。
「おんし、名は?」
 シャボン玉の変化にきょろきょろしていた僕の前に立ち、赤い竜翼をきゅっと畳んだ少女は少し見上げながらそう訊いた。
「カナタ、弧月彼方(こげつ・―)です。助けてくれて、本当にありがとうございました」
 この後の運命は定かでなかったけど、僕はぺこりと頭を下げた。
「くふふっ、こがいわけわからん中でも礼を失せぬおんしの態度、なかなかのものじゃな」
「い、いえそんな……」
 そんな褒められ方をされたのは今まで一度もなかったから僕は真っ赤になってしまった。
「くふふふ、なかなかにかわゆいやつ。おお、いかん。我の名を告げてなかったの」
 薄金の瞳がかすかに赤く光った。
「我が名は『サァ・ヤ』。齢千百と十一のささやける魔性(ウィスパリング・デーモン)よ。『サヤ』と呼ぶがよいぞ」
「サヤ……さま?」
「くふふ、さまなど付けずともよい。おんしは今から我に喰われるのじゃからの。覚悟はよいか?」
 喰われる覚悟と言われても困る……けど、何故か仕方ないかって思えた。
「はい……」
 神妙な面持ちでうな垂れた僕の頭を、サヤ、さんはナデナデしてくれた。無性に嬉しかった。涙がぽろぽろ零れる。小さな手のひらから伝わるその温もりに。
「そうか、我が手に『母』を感じたか……ふむ、よかろう。おんしをただむさぼろぅと思うておったが、気が変わった」
 サヤさんは、僕のおとがいに手をあてて上向かせた。
「我が瞳を見よ。カナタ……おんしが想い、叶えてやろう」
 金の色が濃くなっていく。美しき赤みを帯びていく魔性の瞳に吸いこまれそうに感じて、僕の視界はふっと暗転した。


「……カ……さん……カナタ、さん……」
 とても優しい声音が、僕の名前を呼んでいる。耳に染み入る声を聞くだけで、脳髄がトロけそうだ。心地よさが広がっていく。僕の全身がその声に応えて震えている。
「カナタさん、大好き……」
 柔らかな感触が軽く開いた僕の唇にそっと触れた。上唇が、下唇が熱い感触に優しく挟まれる。びくびくっと反応する僕の唇を覆うように柔らかな唇が重ねられた。
「むぅ、あむぅ、ちゅっちゅ……はぁう、にゅむっ」
 熱く甘い感触と吐息に初めての口づけを捧げながら、僕はそっと目を開いた。
「ちゅっちゅ……ふふ、やっとお目覚めね」
 僕のすぐ目の前で、色白の頬に朱を散らした女性が目を細めて微笑んでいた。宝石のような浅葱色の瞳、くせのある栗色の髪が幾筋も頬にかかり、艶然な雰囲気を醸し出している。
「と、トコさん……?」
「ええ、そうよ。カナタさんの……『トコ』よ……」
 髪と同じ栗色の丸く尖った耳が二つ、彼女の頭でふるふるしていた。大きなきつね耳の先は少しだけ黒味を帯びている。艶を帯びて潤む彼女の瞳の中に、僕の顔が映っていた。
 着てたはずのパジャマはなく、のしかかるようにして顔を覗きこんでいるトコさんの絹のような肌触りと少し高めの体温が自分の胸や腹部、腕や太ももを通じて直接伝わってくる。
 彼女の右手は僕の左頬を撫でさすり、左手は僕の恥ずかしいモノを優しく握っていた。
「あ、ああ……だ、めだよ……」
 鼓動が高鳴る。湧き上がる羞恥に顔はおろか耳まで真っ赤に染まるのを感じた。そんな情けない姿をトコさんに見られたくなくて、つい否定の言葉を口にしてしまう。
「うふふ……ちゅっ。大丈夫よ、私に全てゆだねて……」
 軽くキス。僕の緊張をほぐすように、トコさんはゆるゆると僕の首筋から胸元を撫でさすってくれる。その間も、彼女の左手は僕のおちんちんを優しくしごきながら被った皮をするするとまくっていった。
 自分で剥くと痛むこともあるのに、トコさんの手だとまるで滑るようだ。
「ひゃぁっ!」
 興奮で赤く充血した亀頭がぽよんとした柔らかなものに当たって、思わず腰が引ける。
「ふふっ、これが好きなのかなぁ~?」
 熱くしこった乳首をうりうりと押し当て、おちんちんをいじめるトコさんの責めに、僕の身体はびくんびくんと跳ね回った。
「うあぁっ、それ、だめ……!?」
「まだまだ、これからだよぉ」
 悪戯っぽい声でそう告げると、トコさんは二つのふくらみの間に僕のおちんちんを挟みこんでしごき始めた。彼女の口から唾液が垂れ、滑りが一気に良くなる。にゅむにゅむっ。程よい大きさの乳房を両手で左右からはさむようにして、がちがちになったペニスをにゅるにゅるとしごく。ちゅむっあむぅと熱い口に咥えたり、唇でむにむにと亀頭を甘噛みしたり。
 その度に僕は、腰の奥深くからこみ上げてくるモノを必死にこらえた。
「うふふ、カナタさん、初めてなのに頑張るのねぇ。いいのよ、出しちゃっても~」
 トコさんの言葉は魅惑の響きそのものだ。僕はくあああっと声を上げる。
「はむぅ……むにゅむにゅっ」
「で、出るぅぅっ!」
 びゅくびゅくっびゅるるるる~。びくびくとなった僕のおちんちんを、トコさんは喉の奥深くまで飲みこんで、熱いほとばしりを受け止めてくれた。
「んくんくっ……ふふっ、おいしいわぁ~」
 事もなげに精液を飲み干すと、ぺろんっと桃色の唇を舐める。その舌の動きの淫靡さに、僕はもうじっとしてられなくなってしまった。
「トコさん……!」
 がばっと上体を起こし、彼女の両手をとってゆっくり押し倒す。そのまま、左右に柔らかく分かれてる双丘に顔を押し付け左右に振った。
「あんっ。あふぅ。きゃふぅっ」
 舌と唇で、トコさんの白い乳房の隅々を舐め回す。わざと乳首は咥えずに、その周りを円を描くように舐め続けてると、トコさんが甘く囁いた。
「もぅいじわるねぇ~。えいっ」
 彼女の太ももがきゅっとおちんちんを挟む。あううと呻きながら、僕はトコさんの右乳首と左乳首を交互に吸った。
「きゃふんっ、あうぅ、じょうずよ、カナタ、さん……あぁんっ」
 固くしこってきた乳首を思う存分吸い上げ弄り甘噛みしていると、トコさんが太ももをすりすりしておちんちんをしごいてきた。彼女の柔肌に挟まれるとどこもかしこも淫靡な性器になる。それを股間で痛感していると、背中にもふもふ~っとした感触が……!
「うふふっ。これは、人間の女性じゃできないわねぇ」
 トコさんの二本の大きな尻尾が左右から僕の背中とお尻をさわさわと撫でさする。
 もふもふとした感触と毛先のかすかなチクチクが相まって、僕の全身に言い知れぬ快感が走り抜けていく。
「あうぅ、このままじゃ……!?」
 また出してしまう。今度こそ、トコさんと一つになりたい。
 その一心で僕は彼女の手を離し、乳首をなぶっていた唇と舌を平らな腹部へ滑らせていった。縦に伸びたへそを舌先でまさぐると、くすぐったいのかトコさんが軽く身をよじる。わずかに開いた太ももと太ももの間に上体を滑りこませ、僕はへそからまっすぐ彼女の下腹部に舌を這わせていく。
 ふんわりとした膨らみに達した。トコさんの恥丘に翳りは無い。それが僕の望みだったからかはわからないけど、何だか無性に嬉しさを覚える。
「……なんて、キレイ、なんだ……」
 口を離し、そっと両手でトコさんの陰部を左右に開いた。濃い桃色のふくらみがぷにっと割れ、その中で桜色の花びらがしっとりとした輝きを放っている。
「あふっ……恥ずかしいの。あんまり見ないで、ください、まし……」
 トコさんの劣情を煽る懇願に背を押され、僕はますます目を凝らした。
 ひらひらした二枚の花びらが合わさる上端には、充血してぷくりと膨らんだ肉豆が包皮を割って顔をのぞかせている。もう少しくぱっと開くと、花びらの谷間の中ほどにほんの少し突き出た突起が口を開いていた。
 中指で乳首を乳輪へ押しこみぐりぐりしてるトコさんのお腹が快感に波打つたびに、ぴゅるっと透明な汁を零すさまはひどく隠微だ。その少し下にあるピンク色の肉襞で蓋された膣口からは甘い香りの蜜がぬるっとにじみ、花びらの下の合わせに溜まっていた。
 若い男の誰もが思い描くおま○こにして「深草や」で『徳』集めの試練を乗り越え、人間がもたらす「穢れ」さえチカラに変えたと伝えられる秘奥の女陰(ほと)。
 それが僕の眼前に無防備に開かれていた。ぬらぬらと濡れ光り、息をするかのように花びらをかすかに開いたり閉じたりしながら、熱い精気を注がれるのを待っている。
「舐めますね……あぶっじゅるる、ぺちゃぺちゃ、ちゅるるぅ……」
 爆発しそうな欲望の昂まりを心臓に感じつつ、僕はトコさんにむしゃぶりついた。
「ひゃぁん! あうぅうっ、いぅぅっ!」
 上から下まで花びらを丁寧にねぶっていく。舌先で桃色の肉芽の包皮を左右上下に押しやり、剥き出しにしたクリトリスを唇でつまんで尖らせる。
「ひぃんっっそこぉ、だめぇぇ、あぁん!」
 身を捩じらせ強い刺激に悶えるトコさんの艶姿を楽しみながら、僕はきゅっきゅと肉芽をリズミカルに吸い上げては舌の先端でぎゅうぅぅっと押しつけた。
 ざらざらした舌で固くなったクリトリスをくにくにと練りこみつつ、僕は首から上を左右にぷるぷる振る。
「ひぃっ。ひゃぁあぁぁぁぁん!」
 びくんびくんと激しく波打つトコさんのお腹。膣口が少し開いて甘い露がとろとろと溢れてきた。僕は、右の人差し指をそっと膣へ挿しこんで……ん?
「はぁはぁはぁ、あんっ……ふふっ、カナタさん。指で破っちゃだめよぉ~」
 蕩けた笑みを浮かべながら、トコさんが少し腰を引いた。指がにゅるっと抜ける。膣口から流れ出る蜜にほんの少し赤いものが混じっている。
 指先に感じた感触といい、これは……。
「秘蜜の壷は熟れたまま、乙女の証を妖力で戻したの。カナタさんは――喜んでくれる?」
 僕は返事の代わりに、顔中をトコさんの甘露でべたべたにしながら熱くぬかるむおま○こを激しく貪った。
「ひん、ひゅあぅ、ひん、はうぅ……」
 トコさんの全身が汗まみれになっている。僕も身の内から突き上げてくる興奮と情動に浮かされて、肩で息をしていた。
 ふと、二人の息が合う。動きが止まる。
「トコ、さん……」
「カナタさぁん……」
 僕とトコさんは両手を合わせた。きゅっと指を絡ませ恋人つなぎ。
 彼女は、僕の下でしなやかな足を大きく開いていった。いっぱいに開いたところで二本の尻尾が両膝に巻きついて支える。
「きて、ね……やさしくしてください、まし」
「うん」
 トコさんの白い裸身が神々しく輝いて見える。二本尻尾の稲荷狐なのだ。実際にオーラをまとっているのが、肌を合わせたことで見えてるのかもしれない。
 夢でも叶わなかった最愛の人との性交が、今まさに実現しようとしている。
 敏感に過ぎる亀頭が、ぬちょりと音を立ててトコさんの女陰へすりついた。
「うあっくぅぅぅっ」
 たまらない刺激が腰を引かせるのを、僕は必死にこらえた。
 ぬるんにゅるんと赤みを帯びた桃色の花びらの間を、何度も上へ下へと滑ってしまう。
「あわてない、で……」
 手を離すことなくトコさんは優しく微笑んでくれた。僕を信じて身を任せてくれている。その気持ちが嬉しくて、僕は思い切って腰を前に突き進めた。
「ひぅん……あうぁあぅん。そう、そこ……わかる?」
 膣口の蜜に絡まって亀頭が溶けそうに感じる。心地よい熱さに溺れながらにゅるっとカリまで沈めると、先端が何かに当たった。一度止まる。
「こ、ここ、だね……」
 きゅむきゅむと膣口がカリを締め付けてくる。めちゃくちゃ気持ちいい。もう限界だ。
 トコさんがかすかに頷いた。
「うっ、うわぁぁわぁぁああぁぁぁーっ!!」
 許された安堵と共に、僕はぶちっという破瓜の感触を感じつつ一気に肉棒を衝き入れた。
 熱く甘い蜜に満たされた肉壷は、陰茎をきゅうぅぅと締めつけながらも蕩かしてくる。
「あうっ! あぁん、はぁうぅんぁぁうぅんんんーっ!!」
 トコさんが全身を波打たせて、愉悦の叫びを漏らした。
 どびゅるるるっ、びゅるるるっ。びゅりゅりゅりゅっ。
 おちんちんの先がトコさんの固い子宮口を衝いた途端、僕は熱い情愛を彼女の一番奥で吐き出していた。びゅくんびゅくんびゅくんっ。射精が止まらない。
「う、あぁあぁぁ……」
 あまりにも気持ち良過ぎた。
 一度に解放された圧倒的な快楽に呆然としながら、僕の腰はへこへこ動き続けている。なおも精子を漏らしつつ、ぱちゅんぱちゅんとトコさんの股座をただただ打ち据えている。
「いいのよ? いくらでも、出してぇ……あなたの想い、全部、受け止めてあげる……」
 トコさんは、手をほどくと僕をぎゅうっと抱きしめてくれた。
 僕も泣きながら、彼女にしがみつく。
「……トコさん、大好きです。心から愛して、います……」
「今は……私、カナタさんの恋人、よ……」
 僕は、嬉しさと底知れぬ悲しみを胸の奥に感じながら、想い人の甘い唇をむさぼった。
「トコさん、トコさん、トコさん……」
「カナタ、さん。カナタさん……」

 何度も何度も彼女の中で果てた。
 何度も何度も抱きしめた。
 何度も何度も口づけを交わした。

 今このひと時を、魂に刻みつけるように――
        *       *       *

「くふふっ。なかなか旨かったの。それに免じて命まではとらん。疾く去ね」
 にっこにこ顔のサヤさんが、僕に向かってしっしと手を振った。

 いきなり正気に返った僕は、パジャマの胸ポケットにトコさんのアクリルフィギュアがあることをあわてて確かめて……またもや視界が暗転した。


「うわぁっ!?」
 高所から落下した感覚で、僕は目覚めた。
 ベッドから落ちたわけじゃない。僕の身体は薄い掛け布団もそのまま、ベッドの中央でまっすぐ横たわっていたんだ。
(あれ……?)
 異変にはすぐ気付いたよ。
 若気の至りというか朝の自然現象が全然その気配も無かったんだ。
 それどころか、ほんの少し頭を上げようとするだけで、ぐわんぐわんと視界が回る。
(しっかり……喰われちゃった、かな?)
 とても良い夢見せてもらった代償に、サヤさんにごっそり生気と精気を喰われたんだろう。そんな気がした。
「……トコ、さん……」
 手も上がらないけど、胸ポケットの中の感触で、そこにトコさんのアクリルフィギュアが入ってるのはわかる。いつも通りに。

 また行けないかなぁ? あの「奈落」に――


 結局、夜勤から帰ってきた父さんに見つかって、そのまま医療センターへ入院させられた。一週間も点滴につながってるのは面倒だったけど仕方ないよね。
 謎の心身消耗症状ということで決着したおかげで、始めたばかりの郵便局のアルバイトをクビにならなかったのは幸いだったかも。
 勃起不全になったかってヒヤヒヤしてたけど、これも退院までには回復したよ。
 今はまだ自室でPCが精一杯。でも「深草や」やネットを観て周るだけで楽しいね。

(夢のまにまに~『深草や』裏異聞~・終劇)